☆☆☆平成22年度横浜国大・森下教授特別講義要旨☆☆☆
講義題目:『工学の面白さと魅力』
横浜国立大学・環境情報研究院 森下 信 教授
●日時:2010年8月31日(火)15:20〜16:20
<講演要旨>
●場所:平塚工科高校・新実習棟2F合併教室
皆さんこんにちは! 横浜国大の森下です。ここで、皆さんにお話できることが、とてもありがたいと思っています。
校長先生と同窓会の皆さんの依頼でこの講義が実現しました。私達から見ると高校生のことがよくわかっていません。
そこで直接に高校生へ工学のことをお話したいと思っていました。
最初に簡単に自己紹介をさせて下さい。私自身は造船工学の出身、船の作り方、設計方法を大学・大学院で勉強して
きました。しかし、いまは機械系にいます。なぜこれを言いたいか、一つの専門を進めると、他のことにも興味を持つ
ようになり、様々な分野で能力を高めることができるようになります。もう一つ、私は横浜市大で医学部の教授もして
います。いま、医学と工学は密接な関係にあり、医学は機械系が大切な分野になっています。現代の手術は機械を無く
してできません。したがって、お医者さんも機械を知らなければなりません。皆さんはお医者さんのタマゴはとても勉
強ができて優秀と思うかもしれません。現実はそうではなく、教えていても半分は寝てしまうのです。
なぜ、そうなるのか、皆さんは大学に入る時はとても成績が良く、大学に入ると勉強してくれない。彼らは大学に入
ることが目的、その先の一生を考えていない。そんなの可笑しい。皆さんの一生は大学に入ることではなく、どうやっ
て社会で力を発揮できるかにある。その勉強をする所が大学、それが分からないで大学に入ったら終り。まずこのこと
を皆さんに伝えたい。
私の専門、その一つは機能性流体、電場や磁場で流体の特性を制御できる。電場や磁場で粘度が変わる。
そんな流体がある。振動制御、これは理解できるかな!人工知能、これは分かるかな!「セルオートマトン」は分から
ないと思うので省略。バイオメカニックス、お医者さんと仕事をしているので、医学と工学(機械系)の中間の領域に
なる。私の所の学生は機械系、だが細胞を扱っている。いま生物系と機械系がどんどん近づいている。今日は専門の中
の一つ、生物と工学、ロボットの話から始めてみたい。
ロボットを例にして、最近の工学ではどんなことがなされているか、最初は面白くないので、眠らないで聞いて下さ
い。ロボットの目的はいろいろある。
メンタルロボット(アザラシ型メンタルロボット:パロ)、癒し系、これを使用して、人の相手をさせる。人間は人
間が相手をするもの、こんなロボットを相手にするものではないと私は思っている。
受付用ロボット(三菱重工業:ワカマル)、簡単な会話をするが、相手が来て話し相手ができるなんてありえない。
人間の応対をこんなロボットにさせるなと思う。
東工大・広瀬茂男研究室の各種の救助用ロボット、バッタ型ロボットやヘビ型ロボットなど、後で比較するがまだま
だ未完成なロボットでもある。
ロボットというと、本田技研のアシモがある。実はプログラムで動いている。歩かせる前、前日に40人程度の技術
者が一生懸命にプログラムを修正する。歩く所をすべて決める。1cmの段差があるとこける。握手するのは、そのよ
うにプログラムされており、握手したくてしているわけではない。アシモの前身に「P1→P2→P3」なるロボット
があった。これらの開発に10億円投入したと公表されている。しかし、多分30億円程度は使ったと思う。
コンデンサー等の部品メーカー・村田製作所のロボット(ムラタセイサク君)、自転車に乗り一本道を走るが、それ
しかできない。その仕組みは物理で習ったジャイロ、回転する円板を使用して傾きを補正する。地球コマの応用である。
「ムラタセイコちゃん」という一輪車に乗るロボットもある。
津田沼の駅前にある千葉工大・未来ロボット技術研究センターの各種ロボットは少し違って格好がいい。これらは工
業デザイナーが外観を設計した。この工業デザイナー、駅の改札口のタッチパネルも設計した経験があると聞いている。
駅の自動改札のどこが凄いか、必ずSuicaを読み取る。その角度をつけたのが最初の工夫。最初は水平だったが、
読み取り率が悪い。人間がタッチする時、0.1秒は必要、あの角度は12.3度、何故か分からない。船の進む時に
できる波の角度が12.3度、偶然の一致だと思う。それでも読み取り率は90数%、これを99.9・・%まで上げ
なければならない。もう一つは、緑の十字マークを付けた。これで認識率が99.9・・%になった。そんな工夫があ
った。大きな車で自由に動くロボットもある。
筑波大学の山海嘉之研究室、ここのロボットは人に装着する。人に装着して力を出すことができる。介護にも使用で
きるが、筋電計で筋肉の動きを電気的に捉え、力の弱い人に力を与える。歩けなくなった人のリハビリに使用する。加
える力を次第に弱め、歩けるようにする。困るのはこれを軍事用に使用すること、実際に使用しているが、軍事用に使
わせないため、この研究室の装着用ロボット、販売せずにレンタルにした。世界中で使用されている。
ソニーのペットロボット、アイボ、約20万円/台はする。子供達は面白いといって遊ぶ。私の研究室にも1台購入
して学生に与えたが、1ケ月もすると飽きてしまう。プログラムは4段階でレベルは変化するが、リセットボタンで元
に戻る。ペットは言うこと聞かないから可愛い。
木材切り出しロボット、この作業は大変なので、ロボットにさせる方法もある。
火星探査機、これも一つのロボット、すべて自分で判断して行動する。これをバルーン(風船)の中に入れて、火星表
面に軟着陸させた。日本の「はやぶさ」はイトカワに本当に行ったのか、誰も知らない。報道を信じているだけで、証
拠はない。その辺を回ってきて、戻ってきたかもしれない。持ち帰ったものも地球上のゴミかもしれない。そもそも地
球上のゴミが最初から混じっていたということは信じられないほど仕事が雑にみえる。疑ってみる必要がある。
オートバイを持ち上げているアームだけのロボット、これも一つのロボット、産業用ロボットで最も強いメーカー、
富士山の裾野にあるファナック、黄色の建物で有名、特徴ある稲葉さんの会社、世界的に高度なロボットを生産してい
る。
東京大学の立ち上がるロボット、それだけ、これしかできない。
米軍の研究によるライズプロジェクトのロボット、ライズとは昇るという意味、これは凄い。アメリカ軍は最高の技
術力を持っている。
私の研究室のロボット、動力が一つも無く、斜面を歩く。ダイナミックウォーカーと呼ばれている。この源は米国の
コーネル大学が公表した。
ATR(国際電気通信基礎技術研究所)のトランプをするロボット、どこまで出来るのかはわからない。人工的な脳
を造る実験をしている。
ターミネーター、人工知能ネットワークが作り出した仮想の殺人マシン、現実に可能か、難しいが、これを目指して
いるともいえる。
2008年に公開された「Big Dog」(Boston Dynamics)の映像、起伏の多い地形で歩兵に
随伴できる輸送用の四足歩行ロボット、この脚は自分の足場を考えながら動いている。荒い砂利道、雪上、砂浜および
海の上などでも歩行でき、倒れても態勢を立て直し、急勾配も登ることができる。
脚のメカニズムはタイツで隠しているが、エンジンを搭載、本来の映像は駆動音がする。この平衡感覚、どうしてい
るのか、プログラムされていると思うが、その場その場で対応する。これを戦場で使用、地雷の上を歩かせることもで
きる。そんなことすれば、発見されない地雷の開発が進む。兵器の進歩は常にイタチの追いかけごっこになる。このロ
ボット、最高の技術の塊が隠されている。疾走させ、ジャンプして障害物を飛び越える実験も行われた。
ロボットを動かすだけなら、小学生でもできる。ゲームで遊ぶことと同じ。ゲームで遊ぶのでなく、ゲームを創る側
になるといいと思う。最近の自動車はエンジンとモータの組合せ、モータで動くようになると、音の出ない車になる。
目の見えない人は車の音が聞こえなくなる。音を出す工夫が必要になる。エンジンはいずれモータに置き換わる。その
時、バッテリーをどうするか、パソコンも携帯電話もバッテリーが最大の問題点になっている。バッテリーは、使用す
ると、記憶効果を持ち、劣化する。あるところでが充電できなくなる。電気自動車の鍵はバッテリーにある。
状況の把握とバランスの保持、このロボットには力学の集大成が隠されている。人間の腕の関節、すごく良くできて
いる。摩擦係数は非常に少なく、1/1,000〜1/10,000程度、歳を取れば関節液が少なくなる。バランス
の問題、好ましくない場所では走り方を変更した。どのようにプログラム化されているのか、知りたい。最終的にはロ
ボットに人工的な能力を与えることにある。人工知能を持たせたい。
人工知能、哲学的に知能とは何か、どのようにして実現できるか、その仕組みはまだ組み立てられていない。少し頭
の中、脳の話をしよう。
脳の断面、目の後あたりから上方に脳がある。その内側に生命維持に必要な脳がある。その外側に人間として、考え
悩んだりする場所がある。その全体は厳重に守られ、頭をぶつけ頭突きなどすべきでない。脳には良くない。頭骸骨が
あり、一番外側に硬膜、その下にくも膜、その下に軟膜がある。
人間の脳の重さは約1.3〜1.4kg、人の脳は18歳でほぼ完成する。その後、脳の神経細胞が少しずつ死んで
減少する。神経細胞の数は私よりも皆さんの方が多いかもしれない。大切なこと、それは18歳ぐらいまでに一生懸命
に努力すること、そうすると脳の神経細胞のネットワークが緻密になる。自分自身の能力がより向上する。これを面倒
だと思うと、脳は向上しなくなる。後で頑張ろうとしても、それもできない。才能は脳の奥に入り込み、取り出すこと
ができない。できれば、若い時に少しずつ無理をする。無理をすると、脳のネットワークが良くなる。脳はブヨブヨ、
場所によって機能が決まっている。後ろの脳は視覚、目で見て判断は後の脳でやっている。運動機能の場所も決まって
いる。そこを痛めると運動障害を起こす。特に、交通事故は注意すべき、損傷すると治癒することができない。脳はで
きるだけ丁寧に扱うべきだ。
脳の細胞は2,000億個以上、そのほとんどは良く分からない。脳の持つ錯覚、同じ色の白黒の区別、平行に見え
ない平行線、女の人の顔かアインシュタインの顔など、どうして錯覚を起すのか良く分からない。
脳の中の神経細胞、細胞の核が延びて別の細胞に繋がっている。繋がっている部分をシナプスという。研究によると、
シナプスには僅かな隙間がある。隙間があるから、敏感に反応しなくなる。人間はあまり敏感に反応してはならない。
少し考えてから動く。それを神経細胞のネットワークが行っている。この神経細胞、少しずつ努力することで密になる。
努力しないとダメになる。その典型的な例、宇宙飛行士の場合、無重力で長期間を過す。地上に戻ると立つことができ
ない。昔のソ連(今のロシア)の宇宙飛行士、何年も宇宙に滞在した。その末期は病院のベッドと言われた。宇宙は重
力がなく、骨が軟弱になってしまう。人間の体は環境に適用するようにできている。スポーツが得意ならば、スポーツ
をすると、筋肉が強くなる。骨も強くなる。やらなければ、次第にダメになる。特に、お年寄りは寝かしていてはダメ、
どんどん骨が脆くなり、動かすと骨折する。運動させなければならない。頭の中も同じ、使わないとどんどんダメにな
る。少しずつ使う。少しずつ無理をする。これを是非とも実行して下さい。
人の頭の中に電極を埋め込み、コンピュータに接続、人が右に行け、左に行け、と思うと、車椅子がそのように動く
「Brain−machine Interface」なるものができており、実験的に行っている。脳を鍛えるのは
今がチャンスです。騙されたと思って、是非とも挑戦して下さい。
最後に、お医者さんの視点から、3つの提案をする。1つ目、夜型の人間はありえない。脳は午前中が最も活性化す
る。勉強するならば午前中にする。2つ目、朝ごはんは確実に食べる。脳は1.5kg、体重の約2%、しかし、血流
の約15%を使っている。ものすごいエネルギーを必要とする。そのエネルギーの源は朝食にある。3つ目、よく寝る
こと、寝る間を惜しんで勉強する。これは大ウソ、よく寝なければ、記憶は整理されない。寝る時間を確保する。徹夜
して勉強、そんなムダはない。ぜひとも実行して下さい。ここには優秀な人もいれば、そうでない人もいるかもしれな
い。脳を鍛えること、これは自分の責任、このことを実行すれば、自分の才能が少しずつ開花する。
最後に、質疑応答の時間を頂いた。
@「Big Dog」ロボットについて、歩くだけのロボットだが、大学と軍の研究の違いがある。米軍は凄い技術を
持っている。日本は自衛隊の技術を外に出さないが、米軍も国民の税金で成り立っているので、自分達の技術に他が追
付けないと考えると、その技術を民間に公開する。我々の生活に役立てることが可能になる。「Big Dog」も2
008年に映像を公開した。
A単機能のロボットを統合することができるか、ロボットに豆腐を掴み持上げる技術、これ一つとっても極めで難しい。
今は単独の技術レベルを向上させることに注力している時代、単独の技術を組合せること、これも大切だが、まだでき
ていない。
B機械工学は生命に近付いてきたが、生命側からのアプローチについて、工学と医学の融合、細胞の力学の話をしよう。
動物細胞、その中には、核があり、ミトコンドリア、リボソーム、リソソーム、ゴルジ体などがある。例えば、ミトコ
ンドリア、昔は細胞の外にあったようだ。ミトコンドリアの特技、酸素をエネルギーに変換する。酸素は嫌なもの、酸
化して腐食させる。腐食は生物を劣化させる。そこで、ミトコンドリアは、細胞の中に入り込み、共生を始めた。細胞
は、酸化を防ぐために、ミトコンドリアを取り込んだ。ミトコンドリアのDNAはすべて母系、父系のDNAは存在し
ない。そのDNAを辿ると人類の出発点が分かる。人類は約5万年前にアフリカのある部族から出発した。細胞の中に
ミトコンドリアは約400あるといわれる。ミトコンドリアをクラゲの方法(ノーベル賞の下村博士)で染色すると、
粒ではなく、糸状になっている。最近の女性の化粧品はナノ粒子、細胞の周囲にナノ粒子を置くと、細胞が粒子を取り
込む、鉄の粒子が入り込む。この細胞に磁石を近付けると、細胞が動く。化粧品の中のナノ粒子、危ないかもしれない。
ips細胞(万能細胞)はいろいろな形を生み出す。これからは細胞の中に機械工学が入り込む。細胞の分類、何が細
胞の中に入っているか、すべて機械系や電子系と密接に関係する。生物系の中にも、機械系、電子系、情報系が入り込
む生命工学の時代になる。
Cライズプロジェクトの話から、ゴキブリの脚、鉄片に電流を流すと動く、ライズプロジェクトは吸盤を使っているよ
うだ。吸盤は吸い付いて離れる。ヤモリの吸盤、ガラスに吸い付く、ヤモリの足の先端、ナノサイズの毛になっていて、
分子間力で吸い付いている。離すときはその平面を波打たせて一部を離す。この仕組みで糊ができ、実際に使用されて
いる。これも生物の工学への応用である。
以上(文責:高橋豊)
注)各種サイトは「文責:高橋豊」が参考に補足追加しました。